へんろの話

へんろの話

民衆史、という言葉に惹かれて借りてみた。思いのほか面白かったのは、空海の話がほとんどないこと(!)。弘法大師の時代の民衆にとって神様なのは、土木技術の知識がある人間だ、というのを本当に正確に書いている。荒れ狂う川を治めるということ。日照りに備えて池をつくるということ。そうした技術を持たず、ただ自然が狂うままに虐げられていた人たちに、土木技術はどれほど光明を与えたことだろう、と思う。中国で学んできた中でもっとも重大なことは密教云々ではなくて、具体的な技術であろう、ということをここでも知る。(いや、だからほんと、行基はすごいのです)

それから、遍路が民衆に定着していった過程を、実に誠実に書いている。誠実、というのは、江戸時代の制度や交通と商業の成り立ち、民衆の心意気とかから始まって、ライ病(ハンセン病)についてのことまで、ちゃんと書いてあること。

民衆史という視点は、宗教史以上に、遍路の本質である、と思う。